 
								アマゾンの深い森にくらす先住民族は、森のめぐみと、森がはぐくむ川のめぐみを糧に生きています。畑で作物を育て、川で魚をとり、森のけものを狩る自給自足のくらし。森の中の焼畑では主食となるマンジオッカ(キャッサバイモ)が、家のすぐ裏の小さな畑ではサツマイモやカボチャなどがつくられます。先住民族が行う伝統的焼畑は、じきに地面から木々が芽吹き始め、やがて森が再生するという、持続可能な知恵に満ちた農業です。
 村の周辺の森の中のマンジオッカ畑。木を切り倒して燃やした灰を肥料にするという焼畑の手法でつくられています。
村の周辺の森の中のマンジオッカ畑。木を切り倒して燃やした灰を肥料にするという焼畑の手法でつくられています。 マンジオッカの皮をむいてすり下ろしたものを搾った汁からでんぷんを取り出して保存します。収穫期の女性たちは大忙しです。
マンジオッカの皮をむいてすり下ろしたものを搾った汁からでんぷんを取り出して保存します。収穫期の女性たちは大忙しです。 主食のベィジュを焼きます。マンジオッカのでんぷん粉と水だけでつくる、外はカリッ、中はモチッとした食べ物です。
主食のベィジュを焼きます。マンジオッカのでんぷん粉と水だけでつくる、外はカリッ、中はモチッとした食べ物です。 伝統的な「チンボー漁」。魚がしびれる成分を含むチンボーという木の枝を川の中で打ち叩いて、気絶した魚をつかみ取ります。
伝統的な「チンボー漁」。魚がしびれる成分を含むチンボーという木の枝を川の中で打ち叩いて、気絶した魚をつかみ取ります。 川では1メートル近い大きな魚も多くとれます。薪の火で焼くか水煮にした魚の身をほぐして、ベィジュと一緒に食べます。
川では1メートル近い大きな魚も多くとれます。薪の火で焼くか水煮にした魚の身をほぐして、ベィジュと一緒に食べます。 ペッカリー(野ブタ)の肉がおいしそうに焼けています。ほかにも野鳥やカメ、サル、バクなどが狩りのえものになります。
ペッカリー(野ブタ)の肉がおいしそうに焼けています。ほかにも野鳥やカメ、サル、バクなどが狩りのえものになります。 
								シングー川流域の森を空から眺めると、川や湖の近くにぽつりぽつりと先住民族の村があるのが見えてきます。村には円形の大きな広場を囲むようにして丸みのある家が丸く並び、その周囲には焼畑や、焼畑跡に再生した二次林が広がっています。ひとつの村の人口は最大でも500人ほど。妻の生家に夫が入って2〜4世代が同居するという女系家族の文化を多くの民族が持っています。
 シングー川の上流〜中流域の先住民族の伝統家屋は総茅葺の家です。表と裏の中央に出入り口を持つ巨大なワンルームです。
シングー川の上流〜中流域の先住民族の伝統家屋は総茅葺の家です。表と裏の中央に出入り口を持つ巨大なワンルームです。 寝床は家の中に吊ったハンモックです。10月から4月まで続く雨季は朝晩に冷え込む日も多く、火を起こして暖を取ります。
寝床は家の中に吊ったハンモックです。10月から4月まで続く雨季は朝晩に冷え込む日も多く、火を起こして暖を取ります。 曲線が美しい総茅葺の家の骨組み。1軒の家を建てるのに約40種の植物が使われます。すべて村の周りの森のめぐみです。
曲線が美しい総茅葺の家の骨組み。1軒の家を建てるのに約40種の植物が使われます。すべて村の周りの森のめぐみです。 村人総出で茅の葺き替えを手伝いました。この家の主人が大きな土鍋いっぱいの煮魚と大量のベィジュを用意して、お礼にふるまいました。
村人総出で茅の葺き替えを手伝いました。この家の主人が大きな土鍋いっぱいの煮魚と大量のベィジュを用意して、お礼にふるまいました。 細い横木をはさみ込むようにして茅をかけていきます。骨組みは木の皮を剥いだものを縄のように使って縛りつけてあります。
細い横木をはさみ込むようにして茅をかけていきます。骨組みは木の皮を剥いだものを縄のように使って縛りつけてあります。 屋根を葺く材料はサペーと呼ばれるイネ科の植物です。村のまわりには茅場が何ヶ所かあって、大切に利用されています。
屋根を葺く材料はサペーと呼ばれるイネ科の植物です。村のまわりには茅場が何ヶ所かあって、大切に利用されています。 
								先住民族の生活の中に祭りはとても重要な位置をしめています。死者の魂を送る祭り、3日3晩歌い踊り続ける女たちの祭り、子どもから大人になる通過儀礼、リクガメの収穫祭…。地域や民族によってさまざまにある祭りの背景には、森羅万象に精霊が宿ると考えるアニミズムの世界観が横たわっています。祭りの日、ボディペインティングと羽根飾りの正装で身を整えた人たちで村は色鮮やかににぎわいます。
 ウルクンの実の赤い染料とジェニパッポの実の黒い染料でボディペンティングを施し、羽根飾りをつけて正装したカヤポ民族の人びと。
ウルクンの実の赤い染料とジェニパッポの実の黒い染料でボディペンティングを施し、羽根飾りをつけて正装したカヤポ民族の人びと。 カヤポ民族のベンピの祭りで、ワシの精霊に扮したふたりがヤシの枯葉に火をつけて燃やすという、焼畑にちなんだ儀式が行われました。
カヤポ民族のベンピの祭りで、ワシの精霊に扮したふたりがヤシの枯葉に火をつけて燃やすという、焼畑にちなんだ儀式が行われました。 死者の魂を送る「クァルピ」はシングー川上流域の民族に共通する重要な祭りです。木の幹を死者の魂の依り代として祈りを捧げます。
死者の魂を送る「クァルピ」はシングー川上流域の民族に共通する重要な祭りです。木の幹を死者の魂の依り代として祈りを捧げます。 クァルピの祭りを前にした1ヶ月間、竹でつくった笛を吹きながら家を一軒一軒、訪ねて回る儀礼が執り行われます。
クァルピの祭りを前にした1ヶ月間、竹でつくった笛を吹きながら家を一軒一軒、訪ねて回る儀礼が執り行われます。 クァルピに他の民族の村々からも多くの人が集まりました。背中の赤いペインティングはヘビの紋様で、大蛇が持つ力をもらうという意味があります。
クァルピに他の民族の村々からも多くの人が集まりました。背中の赤いペインティングはヘビの紋様で、大蛇が持つ力をもらうという意味があります。 クァルピの祭りの最後は民族対抗ウカウカ戦で飾ります。ウカウカは伝統的なレスリング。誇りをかけた真剣勝負を、だれもが固唾をのんで見守ります。
クァルピの祭りの最後は民族対抗ウカウカ戦で飾ります。ウカウカは伝統的なレスリング。誇りをかけた真剣勝負を、だれもが固唾をのんで見守ります。 
								アマゾン熱帯林は植物や動物たちの宝庫です。警戒心の強い野生動物を昼間に村の周囲で見かけることはまれですが、なかには森の中で親とはぐれてしまった動物の子を保護してペットのように飼う村人もいます。
 
								日々の暮らしの道具や身を飾るアクセサリーは、自然が与えてくれる素材を使って人の手で生み出されます。紋様や加えられた装飾から、先住民族の美意識が伝わってきます。伝統的なビーズ細工は、丸い草の実や、ヤシの実の殻を小さな円盤状に削ったものに穴を開けてつくられます。ブラジル社会との接触前、先住民族社会にまだ金属がなかった時代には、鋭くとがった硬い魚の骨を使ってビーズ粒に穴を開けていたそうです。
 植物を裂いたものでザルを編む男性。植物を編んでつくる工芸品には、ほかにも大小さまざまな形のカゴなどがあります。
植物を裂いたものでザルを編む男性。植物を編んでつくる工芸品には、ほかにも大小さまざまな形のカゴなどがあります。 頭に乗せる羽根飾りが先住民族の正装には欠かせません。この装身具はコッカーと呼ばれ、色鮮やかな鳥の羽根でつくられます。
頭に乗せる羽根飾りが先住民族の正装には欠かせません。この装身具はコッカーと呼ばれ、色鮮やかな鳥の羽根でつくられます。 森にすむカタツムリの殻でできた白い首飾り。貴重なカタツムリの殻細工のアクセサリーの中には貨幣のように使われる物もあります。
森にすむカタツムリの殻でできた白い首飾り。貴重なカタツムリの殻細工のアクセサリーの中には貨幣のように使われる物もあります。 ハンモックを織る女性。伝統的にはブリチーというヤシの葉を裂いて紡いだ丈夫な糸で織りますが、今は市販の糸も使われます。
ハンモックを織る女性。伝統的にはブリチーというヤシの葉を裂いて紡いだ丈夫な糸で織りますが、今は市販の糸も使われます。 巧みに模様を描き出してつくるビーズ細工のブレスレット。現代では色とりどりのガラス製ビーズがよく使われています。
巧みに模様を描き出してつくるビーズ細工のブレスレット。現代では色とりどりのガラス製ビーズがよく使われています。 ジャガーをモチーフに、太い木から彫り出してつくられた椅子。ワシやオオアリクイ、バクなど、色々な生き物の形の椅子があります。
ジャガーをモチーフに、太い木から彫り出してつくられた椅子。ワシやオオアリクイ、バクなど、色々な生き物の形の椅子があります。 
								先住民族社会と外の社会との間にも、人や物や情報の行き来が年々進みつつあります。貨幣経済やテクノロジーの侵入・導入もまた同様です。同時代に生きる人間として先住民族自身が何を選び取り、それらをどう主体的に使いこなしていくのか。決してそれらに使われるのではなく。…という模索の只中にある今は、彼らにとって過渡期の時代だと言えるでしょう。そんな中、都会の大学や大学院で学んで村に戻り、ITや法律などの知識を駆使して政府などとの交渉に臨む新世代もまた少しずつ増えています。先住民族としてのアイデンティティや伝統文化と現代文明、そのいずれかを完全に否定するというのではない、もうひとつの道を、彼ら新世代は歩み出そうとしています。
 政府の公衆衛生プログラムの一環として、2010年前後から多くの村に太陽光エネルギーで地下水を汲み上げる井戸が設置され始めました。川や湖まで水を汲みに行く女性たちの重労働がなくなり、また衛生的な水を得ることができるようになりました。
政府の公衆衛生プログラムの一環として、2010年前後から多くの村に太陽光エネルギーで地下水を汲み上げる井戸が設置され始めました。川や湖まで水を汲みに行く女性たちの重労働がなくなり、また衛生的な水を得ることができるようになりました。 養蜂事業に従事する養蜂士が森の中の圃場まで道具を運んできました。移動や荷物の運搬の手段にバイクを持つ村が少しずつ増えています。また自転車を持つ村人も少なくありません。道具は便利な反面、高度な道具になるほど維持管理が難しく経費もかかるという側面があります。
養蜂事業に従事する養蜂士が森の中の圃場まで道具を運んできました。移動や荷物の運搬の手段にバイクを持つ村が少しずつ増えています。また自転車を持つ村人も少なくありません。道具は便利な反面、高度な道具になるほど維持管理が難しく経費もかかるという側面があります。 ヤワラピチ民族の村には、太陽光発電パネルと衛星インターネットを使ったWiFi小屋があります。彼ら自身が政府と交渉して設置を実現しました。外部との連絡や情報の収集などに活用されると共に、インターネットを介して通信制の大学で学ぶ若者も出てきています。
ヤワラピチ民族の村には、太陽光発電パネルと衛星インターネットを使ったWiFi小屋があります。彼ら自身が政府と交渉して設置を実現しました。外部との連絡や情報の収集などに活用されると共に、インターネットを介して通信制の大学で学ぶ若者も出てきています。